皆さん、こんにちは。サブロウです。
タイに関するエッセイというか、読み物の第1段です。
島田さんに唆されてアップしますが(^^)、今読み返すと恥ずかしい。

文体がいつもと違うのはわざとです。
もう1つの文(近日アップ予定)との差を明らかにしたかったためです。
いずれは手直しして、HPに載せようと思っているのですが。

この文を書いたのは、1996年の10月。
某ネットの某フォーラムに美味い物報告としてアップしたものです。
私の実姉がタイに来て、初めて嫁さんと対面した数日後ぐらいの出来事です。
当時と今では、バンコクの街の様子も随分違ってしまいましたので、所々に注釈を入れてみました。

できれば感想を聞かせて下さい。

作者現注:主人公はもちろん私ですが、イメージとしては北方健三氏を思い浮かべていただきたい。
あの本人はハードボイルドに決めているつもりだけど、どっか抜けた感じ(ごめんなさい)です。(^^;



ルアンペットのタイスキ

「俺はサンタクロースか!」

 声に出さずに毒づきつつ、楽しげに話しながら前を手ぶらで歩く2人を見る。
私の背中には大量の買い物荷物。
もう我慢できん、ちょっと休ませてくれ、そう言おうとした矢先に姉が振り返って言った。

「疲れた〜、おなか空いた〜」

こ、殺す! めらめらと沸き上がる殺意を必至に抑えて聞く。
「なに食べたい?」
「タイスキがいい、コカ(*1)行きたい、コカ」

 こいつは〜、今夕方の5時半で、ここがスクンビットのアソークだと解って言ってるんだろうか? それとも目の前で微動だにしていない車の群れ(*2)が見えないのか?

「あのな〜」
一言文句を言ってやろうとしたそのとき天啓がひらめいた。
ルアンペット(*3)に行こう(ここから近いし)、絶対コカより美味しいから(行った事無いけど)

 半ば強引にそう決めトゥクトゥクに乗り込んだ。ニューペッブリーにあるお店までそれでも30分近くかかった。
アマリの新しいホテル(*4)の真ん前にある。
客はまだ誰もいない。
タイの普通の食堂のようにドアも何もない店構え、でも店内は結構広い。
天井には大きな扇風機が回っている。2階はクーラーがきいているらしいが禁煙(*5)のようだ。
妻は袖無しのワンピースだし、クーラーは身体に悪い。
1階の道路脇の席に座ることにした。
決して私が煙草を吸いたかったからではない。
私は何時も妻の身体を第一に考えているのだ。

 子供のように見える小柄なウェイトレスが鍋を火にかけ(他のお店と違って真ん中に穴の無い
普通の鍋だ)、メニューを持ってきた。
特に変わった物も無いようだし、英語でも書いてあるので姉にも解るだろう。

「どれ食べたい?」
「このチキンセットって言うのがいいわ」

 私は妻に適当に注文させ、オレンジジュースを飲んで煙草を一服、日も陰ってきて風が涼しい。
2人はまた何やら喋りながらビールを一緒に飲んでいる。
仲が良くって結構なことだ。

 5分ほどすると出汁も煮たって、注文したものもそろい、先ほどのウェイトレスが来て蓋をとり、
具を入れ始めた。
野菜まで最初から全部入れてしまう。
私はその間に生卵を器に入れかき混ぜる。
ここはタイスキに定番の辛いタレも美味しいが、日本のすき焼き風に卵にからめて食べることもできる(*6)のが嬉しい。
生卵は食べない妻がいやそうな顔をしているので、卵かけご飯がいかに美味しいか一席ぶつ。
ますますいやな顔をする。
食文化の壁は厚い(*7)

 最初に入れた鳥肉に火が透ったようなので食べ始めることにする。
これ以上待っていてはいかに最後に入れたとはいえ野菜が美味くない。
暫く3人ともなにも言わずに食べることに没頭する。
具と一緒に出汁も器に取り、そこにタレを少量溶かして食べると絶品である。
口を開けば「美味い!」しか出てこない。
汗をかきかき食べていると通り掛かりのファランが声を掛けてきた(*8)

「ボナペティ?」

 イタリア人のようだ。
美味しいものを食べて御機嫌になっていた私はハ〜イと手を上げニッコリ笑って言った。

「やかましい!大きなお世話だ」

 イタリア人は笑っている、陽気なやつだ。

 具をほとんど食べ尽くして一服し回りを見渡すと、いつの間にか店内は客で一杯になっていた。
しかし私達以外に外国人(*9)はいない。
一息つくと無性にこの出汁でおじやが食べたくなってきた。
あれはまた別腹なのだ。
ウェイトレスを呼んで聞いてみると、なんとこの店ではおじやは出来ない(*10)らしい。
この出汁をむざむざ捨ててしまうのは本当に惜しい、家が近くなら持って帰りたいぐらいだが
致し方ない、涙を呑む。
暫く休んで、店を出ることにした。

「ノーン、チェックビン、ノイ」

 伝票を見ると安い!(幾らだったか正確には忘れたがコカの半分以下だと思ったのは覚えている)
しかも姉が払った。
御機嫌だ
店を出ると街はすっかり暗くなっていた。
食べるのに夢中で全然気が付かなかった。
ニューペッブリーロードは大渋滞で、タクシーはなかなか来ない。
私達は大荷物を抱えたまま、この後ムエタイを見に行く予定になっている。

姉が帰るのはまだ4日も後だ・・・ フ〜

--- 了 ---

(#1)   にも有ったかも知れないが、私はコカと言えばサイアム・スクエアに有る店しか知らなかった。
(#2)   時はまだ、モノレールも無く、基礎工事もほとんど進んでいなかった。
夕方のスクンビットといえば大渋滞に決まっていた。
(#3)   フォーラムで話題になっていたタイスキ屋さん。
本当のタイ通はこういう店で食べなきゃ、なんて言われていた。
まあ、実際美味しいですけど。
(#4)   マリ・アトリウムの事。
(#5)   在は1階の半分まで、クーラー&禁煙スペースが広がっている。
タバコ好きの肩身はますます狭い。
タイ人は、タバコの煙でクーラーが壊れると思っているようだ。
なお、禁煙スペースは食事代にクーラー代がプラスされる。
(#6)   の当時は平気でこういうことをしていたが、肝炎になりたくないなら止めておくべき。
日本の卵が大丈夫なのは、親鶏の飼料に抗生物質が混ぜられているため。
(#7)   まだに、生卵かけご飯には嫌な顔をされる。食文化の壁はホンと厚い。
(#8)   階部分と歩道の間には、一応腰ぐらいの高さの壁があるが、窓も何もない吹き抜けなので、
なんの意味もない。
覗かれ放題である。
(#9)   時は観光客(特に日本人観光客)はほとんど来ない店だった。
カリプソがまだアンバサダーにあって白人客ばかりだった頃の話し。
(#10)   手に卵とご飯を頼んで、自分で作ればOK。当時は思い付かなかった。
今はおじやもメニューに載っているらしい。

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